2021.03.08 Blog #016

流動を「わきまえる」 – 町事業終了によせて

町事業終了と「流動創生」の語の封印

2015年にスタートした南越前町流動創生事業は、「場所や組織に縛られない、多様で新しい働き方・暮らし方」を推進するため、町公式の地方創生事業の一つとして、町内での滞在や活動への参加、また全国を巡る旅の企画などを運営してきました。このたび2020年度をもって、町事業としての運営を終了することとなりました。
事業開始から、地方地域を取り巻く状況は変化してきました。特に2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響、つまり「移動自粛」と「密回避」は、流動創生の趣旨や活動内容に密接に関わるものでした。このことは、直接的なもの、またこれのみを原因とするものではありませんが、町事業としての終了のきっかけにもなっています。
いくつかの理由はありますが、特に事業の核の部分で考えてきた「流動性」の見直しについて触れておきたいと思います。

今回の事業終了を以て、「流動創生」の語は(一時)封印することになります。何かの折に過去の事業や理念として言及することはありますが、リアルタイムで運営されるイベント名やプロジェクト名などに「流動創生」を用いることはしばらくなくなると思います。

流動性とは何か:高ければ良いとも限らない

私は「流動性」の理解を深めるために大学院で研究をしてきましたが、研究のはじめに、「流動性」のキーワードで引っかかるさまざまな研究をざっくり見てみました。

たとえば社会学において、「社会の流動性」や「社会移動」(ソーシャル・モビリティ)といった言葉は、主に社会的な階層や地位の変化の度合いを指します。富裕か貧困か、権力を持っているか持っていないかが、親から子へ引き継がれる世襲的な社会は流動性が低いということになります。昔の貴族制や宗教階級の話のようでもありますが、現代でも、お金持ちの子はお金持ちに、貧困な家庭の子は貧困になりやすいといったことも言われますし、一度貧困に陥ると抜け出せないといった問題もあります。社会の流動性が高いと、貧乏な人でもお金持ちになるチャンスがある、普通の社員でも頑張れば役員や社長になれるといったことになりますが、逆に良い状態から悪い状態へ転落しやすい社会とも言えるでしょう。

またビジネスの世界では「雇用の流動性」といった言葉もあり、希望的な見方と問題視が入り混じっています。ポジティブな面では、終身雇用で一生涯同じ仕事に縛り付けられるのではなく、いろいろなキャリアや組織を行き来できる、実力次第で評価される(実力主義)とも言われます。雇用主からすれば、雇用の流動化が高まれば、会社の事情や社会動向に応じてそのときどきに必要な人材を獲得できるということです。しかしどちらかと言えば、非正規の被雇用者が簡単に解雇されてしまい生活が安定しないといった問題や、育成した若手がすぐ辞めてしまって組織の損失になるといった、ネガティブな問題が懸念されています。

このように「◯◯の流動性」はさまざまあり、階級的な移動や職業選択などと並列して、物理的な移動の話も含まれるというわけです。居地の流動性と表現すれば、転居が多いか少ないかといった話になるでしょう。

そして上に見てきたとおりどの流動性も、必ずしも高ければみんな幸せ、というものではありません。安定することが必要なライフステージもあります。
物理的な移動については、感染症の脅威が今まさに「流動性が高ければ良いというわけではない」ことを如実に示していますし、それが感染症だけの問題ではないことにも気づかせてくれます。人と人が接触することで、ウイルスや風邪がうつるのと同じに、文化もうつります。文化交流は基本的には良いものとされますが、見方によっては文化交流によって独自の文化が失われるということも言えます。極論、移動すること自体も交通事故などのリスクがあります。

増大する流動性とうまく付き合う

人の移動が多くの人を命や健康の危険に晒してしまう恐れがある今、無闇矢鱈に流動性を礼賛することは、社会のたくさんの人たちに誤ったメッセージを伝えることになってしまいます。その反応をいろいろな形で受け入れなくてはならないという意味で、南越前町にとっても、また自分の発する言葉に核を見失ってしまう恐れのある私にとっても、良くないことだという結論に至りました。
ただしこの、良くも悪くもあり、またグローバル社会・情報社会においておそらくコロナ禍を経ても増大するであろう「流動性」というステータスと、どのように付き合うか、どのように調整していけるかといった問いには、取り組み続けたいと思っています。

コロナ禍においては、物理的な移動をはじめとする様々な流動を「わきまえる」ことが重要です。昨今、政治家の発言で「わきまえる」という言葉が批判の的になりましたが、漢字では「弁別」の弁で「弁える」と書き、本来は「見分ける」「物事の道理を心得る」という意味です。ひたすら口を噤んだり、遠慮したりしなければならないということではなく、道理を踏まえて行動する・発言することを指します。
感染症の脅威に関わらず、移動しなければならない人や移動すべき状況もあります。止まっていた方が良いこと、あるいはひとところに留まらせることが命や人権を危機に晒すようなこともあります。
流動性を見極め、適切に調整していく文化が、これから「流動創生」が名前を伏せた先に、何らかの活動へ引き継いでいくべきもの、より多くの人へ密かに拡げ続けていきたいことです。

移住者増を目指す多くの地域の中で、南越前町役場の方々の深い理解と支援なくして、流動創生という概念は世に現れることはありませんでした。
事業からの呼びかけや依頼に快く応じ、来訪者を暖かく迎えてくださった地域住民の方々なしには、活動をここまで広げ、継続することはできませんでした。
都市や他地域には、取り組みを支持し、評価し、面白がり、企画に参加し、ともに旅をしてくださった人々、興味を持って話を聞きにきてくださったメディアや報道関係者がいました。
全国の様々な場所・立場から大勢の方が、流動創生事業を見守り、仲間として支えてくださいました。事業の全ての関係者に御礼を申し上げます。

FlowLife Laboratory 荒木幸子

Recent Posts

  • #016
    2021.03.08
    流動を「わきまえる」 - 町事業終了によせて
  • #015
    2020.03.09
    移動のリスク、それでも移動する理由
  • #014
    2019.12.05
    【RoundTrip2019レポート】福井県南越前町~奈良県大淀町~鳥取県大山町
  • #013
    2019.03.25
    ショートショート:今日のもち子~202X年初夏、流動創生拠点にて
  • #012
    2019.02.05
    関係人口と流動創生の関係~多様化する社会を行き来する
  • #011
    2018.11.29
    RoundTrip2018 福井~奈良~兵庫の旅「旅する○○」レポート【後編】
  • #010
    2018.11.28
    RoundTrip2018 福井~奈良~兵庫の旅「旅する○○」レポート【前編】
  • #009
    2018.11.22
    流動的な「疑似家族」で自分のロール(役割)を拡げてみる
  • #008
    2018.03.20
    流動的な生き方―FLOW LIFEを「手づくり弁当」で考えてみる
  • #007
    2018.03.08
    多拠点で地域と関わる4つのパターン