2016.07.25 Voice #003

地域に、文化に、身を浸らせる。さすらいの音頭取りメンデルさんの旅

図2

東京で会社勤めをしながら、日本各地の盆踊りに魅かれ、地方のお祭りをめぐっているメンデルさん。なぜ、勤め人でありながら多くの時間を“旅”に費やし、地域文化へ飛び込んでいくようになったのかに迫りました。

強烈な旅の動機、盆踊りとの出会い

-どういう経緯で、盆踊りをめぐって“旅”をすることになったのか教えてください。

最初は映画を作ろうとしていたんです。その題材として能楽を見に行って、すごく衝撃を受けて。こんな質の高いものがあるんだって。それから他の日本文化系の芸能も気になって見て回ったりするようになって。そんな中で江州音頭の映像に出会いました。やぐらの上で、エレキギターや三味線、太鼓の生演奏に合わせて着物を着た音頭取りが歌っていて、そのまわりを大勢の人たちがノリノリで踊っているっていうやつです。それを見て「これやりたい!」って思って、それからすぐに民謡入門みたいな本を買ってきて、スタジオを借りて民謡の発声を練習をするようになりました。

で、音頭の取り方を教えてくれる場所ないかなって探していたときに盆踊りのサークルを偶然見つけたので、のぞきに行って一緒に踊ってみたら妙に楽しくて。そこのメンバーに誘われて色々な会場で踊るようになって、その夏は気づけば、都内、地方含めて20ヶ所以上踊っていました。

旅にかける時間のつくりかた

-現在も “旅”にかなりの時間をかけていらっしゃるようですが、仕事をされながらそのような活動は難しいのでは?

僕の場合は、旅行とか宿の予約サイトを運営する会社に勤めているので、旅に出やすい環境にあると思います。今はだいたい月1くらいのペースでどこかしらに旅に出ている感じですね。ノートPCを持っていくので、旅先で仕事の対応をしたりもできますし、長期の休みも取りやすいですね。みんなが旅好きの人ばかりなのでお互いに理解があって、同僚が長い休みをとって旅に出ていても文句を言ったりする人はいないです。
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-はじめから旅行関係のお仕事をされていたんですか?

もともとは地元で映像とかデザインの仕事をしてました。フリーランスで。高校のときに思春期をこじらせてしまいまして、卒業と同時に大学に行かずに引きこもったんです。同級生はみんな関東とか関西とかの大学に行ってしまうから、周りに知り合いがまったくいない状況になって。ちょうどその頃windows95が発売になったのでパソコンを買ったんです。それで夜な夜なネットサーフィンしたりパソコンいじってるうちに自然とWebサイトの作り方を覚えて、映像の編集も独学で覚えました。それである時、友人が結婚式やるっていうから映像をプレゼントしたんです。それが式場の大きなスクリーンにバーンと流れて。それが評判良くて、その式場に来ていたお客さんから他にも作ってほしいという声がかかって。それをやっているうちにフリーランスとして成り立つようになりました。夜中に作って朝寝てっていう感じで5年間くらい続けたんですが、いろいろ考えることもあって30歳の時に畳んで東京に出てきました。

その時に30歳で初めての就職活動をしたんですけど、履歴書の職業欄に「フリーランス」としか書くことがなくて、あとは空白なんです。それを持って色々な会社に面接で回って。でもそれが意外と楽しかったんです。それまで全然人としゃべってなかったから。すっごい熱心に聞いてくれるし、ずっと面接していようかと思いました。
それで、広告代理店とかIT系の会社を数社経て、今の旅行会社で制作の仕事をするようになりました。今の会社はもう7年になります。

-今の会社では5時間勤務という珍しい働き方をしているとお聞きしました。会社でのお休みの取りやすさと相まって、メンデルさんが盆踊りにかける時間を得るポイントの一つだと思うのですが、もともとなぜそういう働き方を?

単純に自分の時間が欲しいっていうことです。やりたいことがいっぱいあるのに時間がないのがストレスで、お金はあんまり要らないから勤務時間を減らしてくれっていう交渉を会社としました。それで5時間勤務ということで落ち着いて、そういう契約を結びました。
交渉は、思っていたよりすんなり通ったと思います。法律とか税金とかいろいろ調べて、これくらいの時間でこれくらいの金額なら会社と自分もWin-Winになるという数字を出すことをしましたし、会社の人も理解を示してくれて前向きに検討してもらえたのが大きかったです。

-5時間勤務をしてみてどうですか。

とてもいいですよ。集中して一気に仕事できるので中だるみがないです。明るいうちに帰れますし、ストレスもないですし、バランスが取れていると感じます。最初は仕事外の時間で、個人的にWebサイト制作の仕事をちょこちょこ受けたりしたこともあったんですけど、全部やめてしまいました。時間がもったいないなと思って。貴重な時間を費やすんだから、仕事にするしないに関わらず、自分が心底やりたいことをやるべきだろうと。だから今は興味が向くままに色々なことを試して、学んでっていう感じで時間を使っています。自分の責任で、自分の時間、自分の人生を握っておけるのはいいですね。
あと、盆踊りにも顔を出しやすいです。

先人と同じ音楽と景色の中で理解を深める「追体験」

-改めて、各地を巡る盆踊りの旅の魅力は、どんなところにあるんですか?

一人でふらっと行って、ふらっと踊りの輪の中に入れる気楽さでしょうか。子供もお年寄りも、地元の人も観光客も一緒になって踊っていて、でも直接的に向き合って関わり合うわけじゃなくて、ただ場と音楽を共有していて個人的に楽しく踊っている。体がぶつかったりしたら、ごめんなさいとお辞儀して。その感じがちょうどいいです。
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あと、僕は盆踊りの本当の魅力は、追体験にあると思っています。昔の人が聞いていた音楽で、昔の人が踊っていた振付けで、見ていた景色の中で踊るわけです。それで初めてわかることがたくさんあって。それは、ただ踊って汗かいてウェーイっていうのとは深度がずいぶん違うんです。踊って格好つけているだけじゃ退屈だし、舞台でこれが日本文化ですよって発表されているのを見るだけっていうのもつまんない。
もっと身を乗り出して、身を放り出して、じゃぼんと全身浸かりたい。その地域に、文化に、歴史に、身を浸らせたい。そういう感覚です。だから僕は歴史がある盆踊りに強く惹かれますし、都内ではそういう歴史がある盆踊りっていうのはほぼ無いので、地方に足を向けているのはそういう理由からです。

-今後の展望を教えてください。

より質の高い音頭取りが出来るようになるっていうのが目標です。そのためには各地の唄、踊りをもっと深く知ることが大事だし、技術の向上、身体的な充実もさらに必要になってきます。今はちょうど三味線奏者と僕の唄を合わせたりしている最中で、それなりの質で音頭取れるまでに仕上げたいなと思っています。ポンっとどっかに言って歌い出して踊り始めるみたいな、そんなことができると面白いですよね。
あとは、消えていく盆踊りが気になっていて、地方の集落でやっている盆踊りには口伝で代々受け継いできた唄がある場所も珍しくなくて、おじいちゃんが一人でアカペラで唄ってたりするんですけど、踊っている人がお囃子を返して、下駄の音が太鼓代わりでみたいな感じでとても雰囲気が良かったりするんです。それが過疎化、高齢化で、参加者がいなくなって、音頭を取れる人もいなくなって、消滅してしまう。それはとても勿体無いことですし、中には質が高いものもあると思うので、そういったものをすくい上げたり、次世代につなげるような動きが出来ないかなと考えています。

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