2018.03.26 Voice #006

ヨハクデザイン×流動創生対談【前編】流動する「個」と「組織」の関係


旅するデザイナーとして全国を巡る 株式会社ヨハクデザイン 武田明子さん。「旅をしながら仕事をして暮らす」ライフスタイルの実践から見つめてきた「地域」と「旅人」、「個」と「組織」の関係について、流動創生 荒木 幸子との対話で語っていただきました。
5時間越えのロングインタビュー!前編です。

◆武田 明子(たけだ・あきこ)
1983年兵庫県生まれ。大阪芸術大学グラフィックデザインコース卒業後、10年間で4社にデザイナーとして勤務。2015年6月に独立。同年12月株式会社ヨハクデザイン設立。企画・グラフィックデザインが主な業務内容。多拠点生活×仕事を実践中。メインオフィスは横浜、サテライトは岩手、愛媛、その他日本全国。磨耗せず余白とともに生きる社会を作る。フリーランスの暮らしを伝えるライフログを、Instagramで更新中。

強みは「経営者」視点

荒木:ご自身のブランドとして「旅するデザイナー」を発信しているのもあって、私の武田さんへの最初のイメージは「やり手のデザイナー」だったんですよね。技術者としての能力の高さを活かして様々な地域で活躍していると。ただ、お話を聞けば聞くほど、技術者としても優秀な方ですが、それよりも「経営者」としてのセンスの良さが、今のスタイルを可能にしているんではないかと思い始めたのですが、どうでしょうか?

武田さん:そう言っていただけるのはうれしいですね。別の人にも「あなたは経営者の頭の使い方をしている」と言われたことがありました。普通の人はお金を得ることについて考えるけど、私はお金を使うことを考えていると。そういう意味での「経営思考」ではあるかもしれません。
お金を使うのは常に「投資」。その投資をどのくらい拡大できるか、常に意識しています。

技術者に不足しがちの「前後工程」をどう学ぶか

武田さん:最近、起業や独立の相談に乗るという支援サービスをテスト的に始めたんですよ。デザイナーの中にも「フリーになりたい」という人が結構いまして。

荒木:経営者のスキルを最小化すると一人社長、つまりフリーランスということですからね。実は経営者脳を持っていないとフリーランスにはなれないという。実際フリー志望のデザイナーさんはどうですか?

武田さん:「私デザインできます!」って、自信満々に断言する人にかぎって、だいたい仕事のやりとりは想定できてないんですよね…。実際には「デザインソフトが使えます」という意味でおっしゃっていることがよくあります。フリーのデザイナーの仕事といえば、受注から始まって見積、ヒアリング、ディレクション、それから制作、入稿とあって、その後印刷等に続いていくんです。企業の中でデザインの仕事をしている人は、制作と入稿のことだけをイメージしている人が多い。全工程が俯瞰できていない、把握できていないことが多いんです。

荒木:フリーランス志望の人の肩を少し持ちますと(笑)一般人も「デザインができる」って聞くと、やっぱり制作や入稿のフェーズだけを想起しますね。特に大きな企業は全行程をやらせずピンポイントだけを末端にあてがうケースが多いと思うので。下手するとチーム内でもひたすら見積ばっかり作っている人とかたぶんいますよね。

武田さん:独立したらどういう流れで仕事ができそうかをシミュレーションしておくといいですよね。特に、今は会社組織の中にいていずれは独立をと考えている人は、組織にいる間に自分ができる範囲を把握しておくこと、自分がわかっていない範囲をわかることがまず大事だと思います。それを勉強させてもらえるのが会社組織なんじゃないかな。

荒木:確かに。ただ、自分のことを思い起こすと、企業内で自分の範囲外を勉強できる機会をつくれたかというと、私はちょっと難しそうだなと思いました。私はIT企業のSE部隊に所属していましたが、営業とSEとではフロアもわかれているし、営業が仕事を取ってきた後でSEが動き出すので、仕事を取るまでの間、営業とSEの間にコミュニケーションがほとんどないんですよ。そのベールに包まれた別セクションの業務を「見せて!」と好奇心旺盛に飛び込んでいけるSEや、それを許してくれる上司ももしかしたらいるのかもしれませんが、普通は「余計な事するな」と止められますね。
ちなみに武田さんは前後工程をどうやって学びましたか?

武田さん:前にいた会社の先輩からですね。基本的にチームリーダーが全部の工程をやらなきゃいけなかったんです。印刷については、印刷会社に外注しているので深い知識はないのですが、それ以外の工程は基本的に一貫してリーダーが担当する。メンバーはいずれリーダーを担っていくから、メンバーに徐々に見積を書かせていってリーダーがレビューする。任される部分が増えていくといった教育システムができていました。本当に、前の会社でやらせてもらっていたことは独立するステップとしては完璧だったと思います。こういう会社が増えてほしい。

個人の成長を支えることが組織のメリットにつながる

荒木:その人が将来独立することを思って…という善意で社員を育てていく会社は、残念ながらなかなかないですね。多くの会社は社員の独立=人材流出と考えてしまいますから。社員のリリースに前向きなのは今のところリクルートさんくらいじゃないでしょうか。
昨今の大多数の企業はむしろ逆に向かいかねないとも思えます。今盛り上がっている「上から」の働き方改革は一人あたりの生産性向上、効率重視を言っていますから、長い目で社員を成長させるためにいろいろな工程を社員に教えるというより、分業や外注化による効率化の方向に考える会社が多い気がする。

武田さん:社員を自立できるように育てるのは、組織を大きくする一つの手段だと思っていて。建物を大きくせずに組織を拡大していく手法、つまり社外にリリースした人材も会社の資源として捉えるということです。囲い込みは結局無理になってくると思うんです。これだけ組織の中で一貫して仕事できちゃったら、いずれみんな独立できるって気づくと思うし。
企業は人材如何、長期的に会社を存続させるためには優秀な人材が必要です。強固な仕組みで会社を堅実に運営していくというのは、今の時代相当難しくなっています。いろいろな個性を持つ人を外部に野放しにしておけば、キャッシュポイントを増やすという意味もありますし、例えばデザイン会社であれば「紙媒体の斜陽」は言われていますが、外部にリリースした人材を通じて別業界に事業を広げていくことで、印刷媒体の低迷のショックを和らげられるのに…と思います。
今後、終身雇用が当てにならないのは皆わかりはじめていて、どうやっても独立していくなら、その人たちとその後手を繋ぐか繋がないかの話になっていきますね。手を離した後でいい関係をつくるというのが大事。

荒木:成程。「こんな会社なんか!」って喧嘩別れしたら敵になるけれど、信頼関係を持ち続けて離れれば、組織外から援護射撃してくれる可能性もあるってことですね。
これは、組織=企業=地域と捉えれば、関係人口と地域の関係にもある意味同じことが言えそうです。良い地域をつくりたいなら、無理に囲い込んでお互い嫌な思いをしたりしないで、相手の繁栄や成長を願って快くリリースすれば、離れても手を繋いでいる外部の遊撃部隊になりえるということです。

後編に続く!(後編は後日公開です!)

文・聞き手=荒木幸子(Takshif) 写真=山岸竜也

Recent Posts

  • #011
    2018.07.18
    【イベントレポート】流動創生CrossOver 関係人口の分解と再構築レポート後編~手段としての関係人口
  • #010
    2018.06.20
    徒歩探索でエリアを理解する、熱狂を生み出す。コミュニティビルダー柴田大輔さんの”パトロール”の真髄
  • #009
    2018.06.17
    【イベントレポート】流動創生CrossOver 関係人口の分解と再構築[中編]~被災地の関係人口
  • #008
    2018.06.07
    【イベントレポート】流動創生CrossOver 関係人口の分解と再構築[前編]~複属と分人
  • #007
    2018.03.29
    ヨハクデザイン×流動創生対談【後編】夢追い人へのメッセージ
  • #006
    2018.03.26
    ヨハクデザイン×流動創生対談【前編】流動する「個」と「組織」の関係
  • #005
    2018.01.30
    「地方で生きるパワーをもらう」カナザワいつみさんの多拠点暮らし
  • #004
    2016.10.31
    全国巡業企画RoundTrip2016秋 滞在地域の方々にお話を伺いました!
  • #003
    2016.07.25
    地域に、文化に、身を浸らせる。さすらいの音頭取りメンデルさんの旅
  • #002
    2016.04.22
    「何となく気になるのは、そこに何かがあるということ」ツジマミさんと“インド”の出会い