2018.06.07 Voice #008

【イベントレポート】流動創生CrossOver 関係人口の分解と再構築[前編]~複属と分人


3月22日、昨年の第1回に引き続き、流動創生の都内でのイベントシリーズCrossOverを開催致しました。今回は地方活性関係者の間で注目を集め始めた「関係人口」について、学識者・実践者・地方関係者をお招きし、クロストークでお話を伺いました。

◆登壇者プロフィール

・庄司昌彦(しょうじ・まさひこ)
1976年東京都葛飾区出身、埼玉県育ち。国際大学GLOCOM准教授として、情報化の進展が社会に与える影響とその対応、特に地域社会の情報化などについての調査研究に従事。内閣官房オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザー、情報通信白書アドバイザリーボード、東京大学公共政策大学院客員研究員なども務めている。

・武田明子(たけだ・あきこ)
1983年兵庫県生まれ。大阪芸術大学グラフィックデザインコース卒業後、10年間で4社にデザイナーとして勤務。2015年6月に独立。同年12月株式会社ヨハクデザイン設立。企画・グラフィックデザインが主な業務内容。多拠点生活×仕事を実践中。メインオフィスは横浜、サテライトは岩手、愛媛、その他日本全国。磨耗せず余白とともに生きる社会を作る。フリーランスの暮らしを伝えるライフログを、Instagramで更新中。

・手塚さや香(てづか・さやか)
さいたま市出身。毎日新聞記者を経て、2014年秋より釜石リージョナルコーディネーター (通称「釜援隊」)に所属。釜石地方森林組合で人材育成事業、森林体験受け入れ、釜石大 槌産材の高付加価値化に取り組む。「岩手移住計画」としても活動。新聞記者の経験を活か し、記事執筆、県内の事業者の広報活動のサポートも行う

・荒木幸子(あらき・さちこ)
1985年横浜市出身。両親が東京生まれの転勤族。都内SIer企業にてコンサルティング部隊に5年間所属。その間に3.11を経験し、大きな社会の変動に脅かされず生きる方法を模索するため、それまでの環境を一転。2013年より福井県南越前町地域おこし協力隊として活動、2015年より南越前町公式事業として「流動創生事業」の企画・運営を行う。

荒木 今日は「関係人口の分解と再構築」というちょっと堅苦しい名前なんですけれども、おそらく、関係人口という言葉に関心がある参加者が多いのかな、と思います。どうでしょうか?
定住でもなく観光でもないっていうのはよく言われていますね。観光客のことを交流人口って言うことが多いです。移住者は定住人口となるわけですが、そうじゃなくて、その間が関係人口と言うふうに言われています。結構、範囲が幅広いんですよね。

ただ、私たちも、手塚さんの釜石もそうだと思うんですけど、「関係人口」という言葉が盛り上がる前から、いろんな取り組み自体はあったわけです。
そこに「関係人口」という名前がついて、今すごく流行り始めてしまって。いろんな取り組みが十把一絡げに関係人口、関係人口って言いだしているところがあるのではと。
多様な地域との関わりを認めようという時流があるというのはいいことなんですけれども、ちょっと混乱しそうだなと懸念している人もいるんですね。なので、そこを整理できればというふうに思っています。


今回のゲストの皆さんは三者三様で、それぞれ違う専門、ご自分の現場を持ってらっしゃっいます。今日は関係人口について、概念的な学術視点・受入地域視点・個人視点という三つの視点から考えていけたらと思います。

では、まず庄司先生に「複属・分人」に関するお話を伺いたいと思います。
関係人口という考えを分解する手始めとして、住むことや働くことを概念化・抽象化していくと、それは個人が地域や企業といった組織にどうやって属するかというか、そことどういう関係を持っているかという帰属意識の話になってくると思います。固定した一つのところにずっといるのか、もっと流動的・多面的であるのか。
庄司先生は、そういった帰属意識の捉え方として「複属」や「分人」とった考え方を提示してくださっています。そのあたりからまず切り込んでいただきたいと思います。

庄司 こんばんは。庄司と申します。
概念的なところからと言われると、すごい難しいこと言わなきゃいけないようなプレッシャーを感じておりますが(笑)。よろしくお願いします。

2年前ですかね、岐阜県の東白川村という人口2300人の村の、「まち・ひと・しごと創生」の総合戦略推進についての会議に参加し、村の将来をどうしていくのかというビジョンの検討に関わりました。高齢者の定義を75歳以上に変えてしまうとか、興味深い議論もしました。難しい将来像を考えるなかで、他の自治体から山奥の村に定住人口を奪ってくるのはかなり難しい、という考えを強めました。

個人にはいろいろな面がある。「分人」という考え方

庄司 「分人」というのは、「個人」をさらに細かく分けて見ていこうという話です。
日本社会は、一つの組織に全面的に全人格的に参加するようなことが求められてきた社会だと言われてきました。地域社会にどっぷり浸かるとか、社宅も含めて、休日・家族も込みで会社にどっぷり浸かるとかですね。
しかし、90年代の終わりの小渕内閣の頃に、当時経済企画庁長官だった堺屋太一さんが、今後は複数に所属、帰属意識を持つ人が増えていくんだ、ということを言っています。これから地域社会で孤立した高齢者の増加という課題に対して、現役時代から会社以外の居場所を持つことが大事ですよねとか、若者も学校だけだと息が詰まるから学校以外の居場所を作ろう、いろんな仲間づくりをしておくと安心だよね、といった議論もあります。

それから今の社会の実態としては、ソーシャルメディアを使っていると、複数のコミュニティに所属しているというのは普通のことなわけです。今日一日の私の例でも、職場の自分のチームの人たちと連絡を取りながら別の人たちとコラボレーションしていて、家族とも連絡を取ってとかそういうことは普通です。働き方も、一つの会社組織に所属するんじゃなくて、フリーランスでやっていくとかチーム型の組織とかも出てきています。

いろんなことが「複属」、つまり複数に属するという方向に動いているということです。そこで「分人」という言葉を使ってみたいと思います。「個人」という言葉はIndividualという英語表現で「devide(デバイド)できない」、これ以上分けられない、という意味をもっています。それを「いや、分けられるよ」と考えてみます。つまり、「個人」はいろんな面を持っていて、働いている時の私と、友だちといるときの私は、別といえば別なわけです。

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私の元同僚の研究者で、現在はスマートニュースの会長をやっている鈴木健という人がいますが、彼は「一人の一票を分割して投票しよう」ということを言ってますね。二分の一票を何とか党に入れて、四分の一票はこっちの党に入れて、とか。たしかに技術的にはできますよね。
また、作家の平野啓一郎さんは、日常生活の中の生き方として、自分とのは終始一貫したものだと考えるのではなく、いろんな面があるんだ、と捉えたほうが生きやすいのではないか、という話をしています。

疑似・複属の制度によって関係者を増やす

庄司 技術的にできるという話では、エストニアという国に面白い話があります。そこではe-residencyという疑似住民票のような国民IDやマイナンバーのようなものを発行しています。それを持てるのは外国人で、エストニアに銀行口座を作れて会社を作れて納税ができるようになります。エストニアはEUなので、つまりそれを持つとEUに会社を作ったりできるんですね。オンラインで手続きして、カードをもらうときだけ本人確認に行けば、日本でも作れます。エストニア国民は130万人しかいないんですが、このe-residencyを1000万人に配ることを目標にしています。エストニアは小さい国で、いつロシアとの関係が悪くなるかわからないこともあり、仲間すなわち関係人口を増やしておきたいということだと思います。

他の国でも、例えば、同じ北欧のデンマークは、新たに二重国籍を認める方向に動きました。それは、優秀な人をどんどん取り込みたいからなんだと思います。

こういう視点を日本の話に持ってくると、じつはふるさと納税ってこれと似た仕組みですよね。自分が居住している地域以外の、出身地や昔住んでた地域など応援したいところに税金を納めるというのが元々の思想です。お得に蟹をもらう仕組みではないんです。

それから、和歌山県に北山村という小さい村では、村が運営するブログポータルで有名になりました。「村ぶろ」と言って、村民以外も含めて1.7万人が利用登録をしていて、そのID持っている人は地域の特産品が買えるというものです。また、ふるさと住民票といって、その住民票を持つ人は市民と同じように公共施設使えるという仕組みを持っている自治体もあります。

ということで、行政でも本当に「定住ではない関係人口を増やす」作戦はあるんです。個人にとっても一つの地域にどっぷり所属するよりもリスク分散やセーフティネットになるでしょうし、自分はこことこことここが地元なんだという意識を反映することができます。こういう仕組みによって、もっと多様な生き方を支えられるんじゃないかと思うわけです。

荒木 ありがとうございました。
気になるのは、関係人口っていう考え方だと、いくらでも無限にいろんな地域に属せるような言い方もたまに聞くんですけど、そんなことないなと思っていて。一人の時間も使えるパワーも限られてるじゃないですか。分人したときに、例えば3地域だったら3分の1、10地域だったら10分の1人と小さくなっていく。それは時間もそうですし、お金もそうですね。それをどういうふうに言っていったらいいのかな、と。

庄司 
そうですね。自分の中でもそれをやりくりできるかっていう課題はありますね。人によって、10地域と付き合いますという人もいるかもしれないし、私は1つだけ2つだけという人もいるかもしれないので、いくつ以上は難しいとは言いにくいですが、どこまでもOKとしてしまうのもなんか違うだろうという気はしています。
自分が歳をとってきたせいなのか(笑)、どっかに根っこがあったほうがいいのかなみたいなことも3割くらい思い始めてはいます。

地域社会に属するという感覚

荒木 釜石はどうでしょうか。釜石が推進しているのは、東京と釜石という2地域のイメージがありますが実際にはどうですか?

手塚 私がいる岩手県の釜石市というところは、新幹線に乗るまでの新花巻駅までに車で2時間半、そこから東京まで2時間半っていう立地です。
関わっている人の中で、「岩手県が好き」という方々が結構いて、東京に住んではいるけれど、例えば岩手県内で花巻にも行っていて釜石にも行っていて、というように、「東京」と「岩手県内の複数地域」みたいな関わり方をされている方はいますね。
頻度は色々だと思うんですけど、隔月くらいで岩手に来てる人はちょいちょいいるので、地域社会に属しているとまでは思ってないけれど、ある程度、岩手と関わってるなっていう意識はあるんじゃないかと思います。

庄司 それは、友だちとかがいるから行ってるっていう感じなんですかね。

手塚 元々、2011年に東日本大震災があって、ボランティア活動とかで毎月のように来てた方々がいたんです。その方々が沿岸で活動をして、帰りに内陸に寄って、という中で、その内陸の人たちとも親しくなって訪ねるみたいな回り方が多いのかなと思います。

荒木 なるほど。そういう関わり方だったら、明日はちょっと県内のこっちの地域行ってくるね、みたいなことでも、地域の力になってくれている仲間という感覚は、あるにはあるっていう感じでしょうか。
たくさんの地域に関わられちゃうと「なんだいあっちばっかり行って」みたいな不満が出てきたりとか(笑)。地方もそういうふうにちょっと寂しい思いをしたり、やきもちやいたりとかするのかなというところは疑問で。時間の多寡ではなくて、関わり方のほうが大事なんでしょうか?

庄司 僕インターネット大好きで、インターネット上に住んでるみたいな感じなんですけど、年に1回とか数年に1回とかしか会えない人とも、常に繋がっている感じってあるんですよ。数回しか行ったことないところでも、わりと色々知ってたり、友だちがいっぱいいたり、コミュニケーション量が多い地域なんてのもあったりするんですけどね。

荒木 昔と違って今は、情報の部分がすごく行き来してるというのはありますね。

手塚 一昨年のことなんですが、北海道と岩手で死者も出た台風10号の時に、いわゆる関係人口的に関わっていた東京の人たちで、翌日に、被災した家屋の泥出しのボランティアに駆け付けてくれた人が何人もいて。

大きな被害を受けたのが自宅から15キロくらいの近いところでしたが、市内各地で小規模に被害が出ていて私たち住民も自分たちのことで手いっぱいでした。そんなときにわざわざ東京から来てくれた。例えその人が過去に2、3回しか来ていなくても、これだけ気にしていてくれて、実際に行動してくれたんだと思うと、時間どうこうではなく関わり方として、やっぱり感じるものはありましたね。

関係人口側の事情と地域の要望

荒木 関わる側として武田さんは、どうですか。こっちにも行ってあげたいし、こっちにも行きたいみたいなのあると思うんですけど。

武田 「うちだけの人」みたいにあまりに濃くなってくると、私は逃げたくなっちゃうので、逃げちゃいます。だから、あの人はここに毎月来る人だから、みたいな定義されちゃうと嫌だなと思って、行かないようになる(笑)。
帰属意識という意味で、それが心地いい人もきっといるんだろうと思いますが、私はそういう約束はあまりしたくない。自分の中では、約束が無いのに行くほうが価値が高いと思っています。

荒木 関わりたいけど捕捉はされたくない、みたいなのありますよね。

庄司 旅したときに、例えば、荒木さんなら荒木さんのところのおうち(福井の流動創生拠点)に泊まります?それとも宿取ります?

武田 荒木さんのところは、お部屋とこたつを提供して頂いて、いい感じで寝ました。ゲストハウスに泊まることもありますが、基本的には車中泊することが多いです。
誰かのおうちに行くと、そこで五時間とか喋ることになっちゃうじゃないですか。持って行っている仕事が多いので、それはちょっと今日は出来ないんで車で寝ます、みたいなことは多いですね。

庄司 別に関わりたくないわけじゃないんだけど、自分のペースもありまして…みたいなところはあるってことですね。

荒木 観光客ではないけども、個人としての在り方をしっかり持っているというか、自分がこうしたい、個人としてこうありたいから、その帰結として地域と関わるみたいなところがあるのかなと思いますね。

庄司 ただ、逆に地域側の立場に立ってみると、そういう人ばっかり増えすぎてもなあ、というところもあるとは思うんですよね。大量にお金を落としてくれるならいいのかもしれないですけど、そんな人はそんなにいないわけです。交流ばっかり増えてもなあと思う人がいるのも、正直わからなくはないです。ただ、関係するならこの地域にコミットしろと言われてもなあという気持ちもわかる。両方わかりますね。

荒木 自分に主体があるのか、地域の要望に応えるのか、という点の塩梅はなかなか難しいところですね。
庄司先生、ありがとうございました。

(中編へつづく)

文=荒木幸子(FlowLife Laboratory) 写真=nanaha ookubo、山岸竜也

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