2018.12.11 Voice #012

地域を訪れ人間を知る、都市に留まり人間と向き合う。いずお智佳さんのサラリーマン二拠点

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東京の企業に勤務しながら、東京とご出身の奈良を行き来しているいずおさん。本と本屋を愛し、東京での会社勤めの傍ら、奈良に住むご友人と協力して奈良の空き家を利用した古本市も始められています。(参考:RoundTrip2018 福井~奈良~兵庫の旅「旅する○○」レポート【後編】
サラリーマンが二拠点で活動することで湧いてくるアイデアや想い、ご自身が仕事で感じていらっしゃる人材の流動性についてお聞きしました。

◆いずお智佳(いずお・ちか)
奈良県出身。千葉県在住。都内にて人事関連職務に従事するサラリーマン。
姪・甥が産まれて子守のために帰省の頻度が増えたことがきっかけで首都圏と奈良の二拠点を志すようになる。亡き祖父母が住んでいた空き家を「こもりくブックセンター」として活用することが出来ないか日々模索している。本や書店に関する見聞を広めたく、千葉県松戸市の「せんぱくBookbase」や下北沢の「bookshop traveller」をお手伝い中。

地方に関わるのは「筋トレ」のようなもの

荒木:
昨年のRoundTrip2017は参加者として、そして今年のRoundTrip2018では奈良での受入地域として、流動創生の企画にしばしば関わっていただいていますが、福井にじっくり滞在いただくのは初めてですね。いずおさんにとって地方での活動はどんなものでしょうか?

いずお:
最初に参加した際は「好奇心」ゆえですが、あらためて考えると私がRoundTripに参加したり、今回福井へStopOverで来たのは、「筋トレ」のようなものだと思っていて。
サラリーマンをしていると、サラリーマンの「筋力」のようなものはつくんです。仕事をこなしたり、職場での人間関係に必要な筋力。都会にいる上ではそれだけでも生きていられますし、その日常に不満は無い。けれど、3.11の東日本大震災で今いる暮らしの脆さを感じて、それが崩れた時に必要な筋力が自分にはまったく身に付いていないのではないか、と思いました。自分たちの手で暮らす力、とでもいうか。

今回の11月末から参加したStopOverでは、雪囲い(雪害対策の仕組み。家の窓を木の板等で覆う)の経験は忘れがたいものになりました。お恥ずかしい話、いざとなったら一人でも生きることのできる力をつけたい、と思っていました。なので「人はひとりでは生きていけない」といった思想はあまり見ないようにしていたのですが、雪囲いをした時に「…ほんとだ!一人じゃこの作業は物理的に無理…!!」ということをぐさぐさと体感した自分がいました。

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一人でも生きられるというのは、都市的生き方しか見えていない人間の思い上がりなんだなあ、人は人と関わって生きるしかないものなんだなと、本当の意味で気づいたというか。

都市部の新人研修で、運動会やらせたりするのは、ある意味、こういう体験を狙ったものなのかもしれませんね。「チームビルディング」の文脈でしか見ていなかったので、わかっていたつもりが本質の一部を見落としていたかも、と目からウロコでした。

それと、仕事柄、キャリアコンサルティングの勉強もしているのですが、その立場としてもいろいろな生き方があるよと言っているのに自分が知らないのはよくないなと思うので、流動創生のイベントに参加できる機会は貴重です。

神話や説話に人間の業を見る

いずお:
変なことを言っているかもしれませんが(笑)、自分は地方やそこにまつわる歴史に触れると、ある意味「人間の業」に触れる面白さがあるような気がするんです

荒木:
「業」ですか…!

いずお:
例えば、奈良との二拠点を目指すようになってから、奈良をもっと知りたくなって『古事記』や『日本書紀』についての本をいくつか読んだのですが、古代の物語には、人間の弱さや本質が生々しく描かれているように思うんです。

荒木:
古事記というと、イザナギノミコトが死んだ妻イザナミノミコトを負って黄泉の国に行く話を思い出すんですが、これも生々しい夫婦の感情を描いていますね。

いずお:
「絶対振り返らないで帰って」と言われて立ち去る途中、見なきゃいいのに振り返ってしまう。腐敗した酷い姿のイザナミを見て、恐れて逃げてしまう。直前までしおらしく見送っていたイザナミは、約束を破って見られたことに激怒して襲ってくる。愛し合っていたはずの二人なのに攻撃し合う。綺麗ごとじゃないリアルな反応だなあ、と。
「やらなくていいことをやっちゃう」のが人間臭くて愛しい。
専門家からしたら、そんな話じゃない、と怒られるかもしれないけど(笑)。

最近は妖怪の説話にも興味があります。先日、奈良のゲストハウスの女将に山奥に出るという「だる」という妖怪について教えてもらったんですが、山を歩いて「だる」に憑かれると一歩も前に進めなくなってしまう。「だる」を祓うには米粒が必要で、米粒を食べると「だる」がすっと消える、というんです。だから山を登るとき、お弁当には必ず少し米粒を残しておかなければならない、と伝えられている、と。
ふと、この「だる」はたぶん低血糖とかそういう症状のことを言っているのではないかな、と思いました。妖怪の話として、山で遭難したときに身を守る術として語り継がれたんだろうと思います。

科学だけでは解決できないものを妖怪のせいにしたり、古い慣習で対処できていた昔の文化は地方のほうが残っている気がします。これは現代の私たちが、同様に科学や理論で解決しようとして解決できないこと―例えば人間関係であるとか、心の問題などと向き合うときの、ヒントになるんじゃないかと思っているんです。

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会社員として人材の流動性を考える

荒木:
現在企業に勤務されているいずおさんですが、社内ではどんな仕事をされているのでしょうか?

いずお:
今は、人事関連の仕事をしています。
最初、技術者の部署に配属されたんですが、技術的なスキルがなかなか思うように成長できなくて。「パソコンの電源ってどうやって切ればいいんですか?」というところからでしたし(笑)。それでも、先輩が私のあまりのできなさに「なんでこの子はこんなこともできないんだ?」と面白がってくれたので有難かったです。自分と違う人間、異文化を面白がれる人というか知的好奇心の強い方だったんだと思います。それに、私は技術的なことは皆と同じようには出来なかったけれど、例えば、会議の会話内容を詳しく覚えていたり、とか少しは役立てることもあって。先輩が、私の「できること」は認めて褒めてくれる人だったのは本当に幸運でした。数年間、その部署で頑張ったんですけれど、次第に人材開発の仕事への興味が高まって上司を始めとして社内の色々な人に相談し、4年目で異動できることになりました。

荒木:
なぜ人材開発の仕事に興味を持ったのでしょう?

いずお:
就職する前は「芸人のマネージャー」になりたかったんですよね。突出した才能を持つ人を支えるような裏方の仕事に憧れがあるんです。技術力のある先輩方の「才能」を見て、人事・人材開発の仕事も、同じ要素を持つ仕事と感じたんだと思います。あとは、先輩方が私の個性を認めて温かく自分を育てようとしてくれたので、自分も早く「育てる側」として役に立ちたい、と思っていました。

だから、仕事でつらいことがあっても会社を辞めたいと思ったことはないんですよね。お世話になった先輩や組織に、自分に合った役割で貢献したいと思っているんです。愚痴は大いに吐きますけど(笑)。

仕事においても、人の流動の必要性については良く考えますね。「異動すると視野が広がったり経験が豊富になる」というのは経験者には感覚的にわかるんですが、一度も異動したことのない人にはなかなか伝わりづらいこともあります。単に異動させればいい、という単純な話でもないですし。

私自身、何度か人事異動を経験していますが、別の部署の人々の対応に不満を抱いて、「なんでそうなるの!?」って文句を言っていたけれど、実際、その部署に異動して自分が身を置いてみたら、それまで疑問を抱いていたことが妥当だったり、外部からはわからない部署内の事情があるのを知ったりしたことが何回かあります。その経験を経て、なるべく相手の事情を理解しようとは気をつけるようになりました。それでも文句言うことはありますけど(笑)。

人材開発は学問としても盛んに研究されていますが、「異動・移動」に関しても、学問の観点でもっと学びを深めて、色んな人と対話できるようになれるといいな、と思っています。

写真=宇野 朱美、Tatsuya Yamagishi(シノノメクリエイション)
聞き手・文=荒木 幸子(FlowLife Laboratory/流動創生)

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