2019.02.04 Voice #014

多拠点居住の佐々木俊尚さんに聞く、拠点×地域のいまとこれから


東京-福井-長野に活動拠点を持ち、月毎のサイクルで3拠点を移動しながら暮らしているジャーナリストの佐々木俊尚さん。福井県美浜町の拠点「蒼舎」にお邪魔し、地方地域が多拠点居住者とどのような関係を築き得るかをお聞きしました。

◆佐々木 俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト。
1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆・発信している。総務省情報通信白書編集委員。「そして、暮らしは共同体になる。」「21世紀の自由論〜『優しいリアリズム』の時代へ」「キュレーションの時代」など著書多数。Twitterのフォロワーは約78万人。

多拠点にまつわる居住地選択と移動コスト

荒木:
佐々木さんは2011年の東日本大震災をきっかけに東京と軽井沢の二拠点居住を、また2015年からは福井も加わり、現在東京・福井・軽井沢の三拠点で活動されていらっしゃいます。ちなみに多拠点に限らず「引越」でいうとどれくらい経験されていますか?

佐々木:
子供時代も含めたら20回以上引越しているかも。親の仕事の事情で転勤族でした。人には引越好きとそうでない人がいて、僕はわりと引越好きですね。3年くらい同じ場所にいるとだいたい飽きてしまう。都内の家もしばしば引越していますが、今の家はもう4年くらいになりますね。

荒木:
そろそろ都内拠点も引越どきかもしれませんね(笑)

佐々木:
最近は他の地域からも「多拠点の一つとして住んでみませんか?」と声をかけられることが多いですね。八ヶ岳にも知り合いが多くて、良いところだと勧められます。東京までの移動が比較的楽なので、八ヶ岳から通勤している人もいますね。

荒木:
長野はやはり東京までの交通の便が良いので、移住も二拠点居住も盛り上がっていますね。高速バスやLCC等で移動コストが下がっている影響は大きいと思います。残念ながら福井は空港がないので、LCCの恩恵はあまり受けられないですが…

佐々木:
福井の場合は新幹線・特急を使うと往復で1人27,000円、夫婦だと5万円以上かかかります。電車の運賃が下がらないのはネックですね。
物流や通信では「ラストワンマイル」という、幹線から家までの最後の短い距離が問題になるとよく言われますが、居住も同じで。東京から敦賀まで新幹線・特急で来れるけれど、その後本数の少ないローカル線に乗り換えなければならないし、ローカル線の最寄り駅から家までも遠い…最近は敦賀に月極駐車場を借りて車を停めておくようにしています。

移動コストについてはまだまだ課題がありますが、居住のコストがほとんどかからないのが地方の良いところです。空き家については、年5~6万円の固定資産税だけかかって持ち主の負担になるということで、ただで譲りたいという例も増えてきた。地方で住む場所を確保するのは難しいことではなくなってきています。
なので、多拠点にあたって「居住」のハードルはもうほとんどないといっていいでしょう。問題はやはり仕事と移動手段になりますね。

拠点は「私物が置いてあって落ち着ける」場所

荒木:
多拠点居住のが言葉が一般にも広まってきましたが、実践を考え始める人が、「ゲストハウスを使っている地域も拠点になるのかな?」「やはり持ち家、借り家がないと拠点とは言えないのかな??」といった、そもそも”拠点とは何か”という問いに突き当たっているのをしばしば聞くようになりました。佐々木さんにとって”拠点”はどういう場所ですか?

佐々木:
寛げたり安心感があったりすることが大事かなと。求めるものは人それぞれですが、僕の場合はゲストハウスだと落ち着かないなって思っていて。僕にとって拠点は、いつも使っている道具、例えば自分の歯ブラシがあったり、私物が置いてあって、何時間かいれば落ち着いてくるような場所。
最近リリースしたADDressも、個人のロッカーみたいなものがあるといいんじゃないかと思ってます。パソコンの機器とか、自分の持ち物が保管できると、ただ泊まる場所というのではなく自分の場所になるかなと。

一人ひとり、どんな場所やどんなやり方があっているのか、心地よいかというのは、やってみないとわからないもの。自分の持っている仕事がリモートでできるものなのかどうかもだし、拠点間の移動にも体力が必要だったりします。いきなり遠距離で二拠点、多拠点はやはりリスクが高い。例えば週末プチ多拠点なんかをやってみるといいんじゃないかと思いますね。

荒木:
いろいろ試してみて、それぞれにフィットする暮らしに辿り着くことが大事ということですね。

人が人を留める、コミュニティに人が集まる

荒木:
空き家活用にしても多拠点にしてもそうですが、ここ最近地方が売りにしていた「新しいライフスタイルの開拓」といった意義を掲げる移住が、東京近郊や東京でも可能となると、移動コストが阻む地域はやはり捨て置かれてしまうのではないかと思ってしまうのですが…そういった地方はどうやっていけばいいでしょうか?

佐々木:
いろいろな町が「どこの田舎でも同じPR」をしがちですよね。自然が豊かとか、人が優しいとか…
本当に最後には、家の確保も移動手段もあまり関係なくて、結局は「人」ですよね。軽井沢は最初に物件を探していた時に、たまたまネットで調べた不動産屋さんから空き家を紹介してもらったんだけれど、その後も何かとその不動産屋さんが世話をしてくれて。別の家を提案してくれたり、最近は軽井沢も気温が上がってきたのでエアコンを入れてもらったり。まったく知り合いがいないところからスタートした軽井沢だけれど、その人がいなかったら僕はもうとっくに軽井沢を離れていたかもしれない。

荒木:
地域でいろいろ世話を焼いてくれる人がいるのは大きいですね。

佐々木:
そして、そこにコミュニティがあるかどうか。一人でぽっと地域に入り込む人は少ないですからね。地域で盛り上がっている取り組み、例えば神山町のグリーンバレー、遠野のNext Commons Labも、そこにコミュニティがあるから人がやってくる。一人で地域に飛び込む変わり者は極僅かなので。
遠野も最初地域に入り込んだのは一人の女性で、農業でもなんでもエネルギッシュにやっている人でしたね。その後にNext Commons Labの林さんが入ってコミュニティを広げていったようです。

荒木:
それでいうと、私は南越前町に最初に飛び込んだ一人で、その後スタッフや協力者の力によってコミュニティが広がってきた気がします。地方は家を整えるとか移動手段をどうするかということより、最初に入り込んだ人やそこに生まれたコミュニティを如何に大事にしていけるかが鍵ということでしょうか。


限界集落の継承、地域のありようの変化

佐々木:
集落の人間関係や権力構造が経年とともに変わってきていて、限界に近い集落や地域で、逆に若い人が何かと活動しやすくなっているという面もあると思います。ただ、まったく人が住まなくなると空き家も使えなくなってしまう。建物は3年人が住んでいないと配管が駄目になって修繕にお金がかかってしまいます。その前に如何に譲り渡していけるかどうか。
いずれは地方だけでなく都市近郊でさえも、都心以外の地域は人口が減って、ヨーロッパの森の間に村がぽつぽつとあるみたいに、コミュニティが残ったところが小さな集落として点在するような状態になっていくかもしれません。

荒木:
コンパクトシティ等の政策を見ていると、末端地域はインフラや除雪等、行政サービスが滞っていく心配もあり、末端地域にコミュニティを構えることがよりハードモードになってしまうのではないかという懸念もあります。ただその頃には、地方の景色も共同体のありかたもすっかり様相が変わっているんでしょうね。
でも、それくらいイメージを未来に飛ばせていないと、地域も多拠点居住者も、これからの時代の変化に対応していくことができないと思うんですよね。少ない人口、小さな経済でこれまでと違う回り方をしている社会を許容できれば、それは旧来の景色ではないかもしれないけれど、地方が存続する方法はありますよね。

佐々木:
いくらでもやりようはあると思いますよ。

3月9日開催決定!佐々木俊尚さん出演トークセッション


毎年流動創生が東京で開催するイベントCrossOverシリーズ。今回は佐々木俊尚さんをゲストにお招きし、トークセッション「拠点にまつわるDialogue 多拠点居住推進会議Ⅱ」を3月9日(土)都内にて開催予定です。
最新情報は流動創生公式facebookにて順次お知らせしますので、是非チェックしてみてください。

聞き手・文=荒木 幸子(FlowLife Laboratory/流動創生)

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