2019.03.14 Voice #015

借り暮らしで考える、暮らし方の選択肢と“拠点”のかたち ~流動創生創設二者対談

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知人の長期不在のお留守番を兼ねて、2018年12月末~2019年2月末の2か月間の期間限定で岩手県遠野に拠点を開いて借り暮らしをしていた流動創生メンバーの山岸。山奥の暮らしで考えた「拠点」のあり方について、流動創生荒木と改めて会話しました。

移動・流動で獲得する暮らし方の選択肢

荒木:
岩手拠点での生活はどうでした?本州で一番気温が低いこともある遠野で、最初はなかなかハードだなと話していたけど。

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山岸:
実際に暮らしてみたら、思ったほどはハードではなかったですね。山水を引く自家水道の泥抜きもたまにやる程度だし、雪も思ってたより降らなかったし。ただ、仮に雪が多く降ったとしても雪国の福井で暮らしたし、寒さも北海道育ちなのである程度は大丈夫だろうとは思って来ました。人里離れたところにある家で暮らすのも和歌山で経験しているし。

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荒木:
あまり住む環境を選り好みしないのはいいことだね。

山岸:
じゃあこれが行ったこともないアフリカで暮らせとなったら、やっぱり不安だと思いますよ。なかなか実際に生活して起こることのイメージができないので。情報収集はできたとしても、実際にどうやって生活してるんだろうとか、実際の現場感はない。まあ行ったら行ったでなんとかなるものなんですけど、ある程度イメージできる国内とは違って、暮らすことに不安を感じたり、その選択肢を選ぶことに少なからず躊躇するってことはあるでしょうね。

荒木:
どこまでやればイメージを持てるんだろう?

山岸:
旅行でもなんでも一回でも現場に行って、例えば実際に生活してる人を見るとかでもいいんでしょうけど。だからアフリカでも一回行っとけばまた違うのではと思います。ただもちろん、観光ツアーで観光名所に行っても実際の現地での暮らしを理解するのは難しいと思いますが。

僕がいま拠点にしてた岩手の家も、家主さんが不在にする期間中に誰かに使ってほしいと思ってることを知って期間限定で岩手拠点を開設しようと思ったわけですが、雪道の経験だったり寒い暮らしの経験があったから、初めての冬の岩手でもまあ問題ないだろうと思ったので。

経験は大事です。先日、岩手拠点に滞在していた方とも話しましたけど、二次情報じゃなく実際に自分で動いて、自分自身でこういう環境の暮らしをしてみることでその環境が自分に合うかどうかわかる。合うか合わないか、好きか嫌いか置いといて、こういう場所で暮らしたという経験、暮らす中で見たこと、知ったことは、暮らし方の選択肢を増やす意味でも、その後も絶対に活きると思う。

ハードとしての「拠点」のあり方

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荒木:
岩手遠野の拠点は、家主さんが長期で家を空けるので、その間に住む人を探していたと。地方の昔ながらの木造の家は、しばらく空けただけで水道管が凍結したり、動物に荒らされたりといったことが実際にある。遠方に用事があると、人間はいくらでも動けるけど、ハードが足枷になるってことはあるよね。

山岸:
ハードというか、なんにせよ「所有」してるものがあればあるだけ制約されることは出てくるんじゃないですかね。家を選ぶときだって、車を持ってるから駐車場つきの家じゃないと暮らせないとか、家具がいっぱいあるから広い家じゃないと暮らせないとか。

荒木:
あと、最近はモバイルハウスのように家も動かせばいいじゃないという解決策がでてきたけど、所有物が全部動くようになればいいとは私は思わないなあ。実際、畑とかは動かせないから。

山岸:
絶対的にみんながみんな動くことが”良いことである”ということではなくて、その場所に居続けたい人は望み通りに居続けて暮らせば良くて、移動したい人は望み通り移動すれば良いだけではと思います。
自分が土地に根付いて暮らすのか、移動するのかも自分で決めること、自分で決めたことであって、互いを批判するものでも妬ましく思うことでも、無理に選択を強制することでもないというか。
ただ、例えば畑の近くで暮らしたい、土地に居続けたいと思ってるのに場所を離れなくちゃいけないとか、逆に自分自身は移動したいのに畑とか動かせないものを所有したとなったらいろいろと問題も起こるだろうと思いますけどね。

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荒木:
岩手拠点では目的のひとつとして、家主不在中の家の保持を目的に住んでいるけど、他にも同じような案件はありそうかな。

山岸:
あるでしょうね。家自体は人口が減るわけだから余っていくわけですけど、遠野拠点と同じように普段は使ってるけど不在にする期間があるとか、逆に普段使ってないけどたまに使うとか、事情があって家を手放すわけにはいかない、取り壊すわけにはいかないってケースは普通にあるでしょうね。

荒木:
実は福井拠点もそうなんですよね。流動創生で使わせてもらうことになる前は3年くらい空き家になってて、家主さんも地域外に住んでるから、集落内に住む家主さんの親類の方が家にときどき来て管理していた。空き家だった期間もありながらきれいな状態で保たれてたのは、集落の中に管理してくれていた親類の方がいたというのが結構大きかったと思う。これから空き家の数が激増すると言われている都市圏だと、家の周りに親類とかもなかなかいなくて、空き家期間の管理者がいないとなると荒れるのが早いかもね。
家のあり方という大きな見方で言えば、家のつくりや構造といった物理的な面と、家の使い方といった論理的な面を並行して見直さなければならないと思うんだけど、その論理的な面のひとつが、こういうふうに使われてない期間は別の人が使うっていう時間分けシェアなんかがあるのかなと。

山岸:
そうですね。家にしてもモノにしてもスペースにしても使わない期間があって、その間に誰かが使ったほうがいいっていうのは他にもいくらでもあると思う。

他者の暮らしをインストールする「借り暮らし」

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荒木:
今回、家主の一時不在の留守番として、家を住んできたそのままの状態で使わせてもらう「借り暮らし」の生活を経験したけれど、どうだった?

山岸:
もともと引っ越し含め移動が多い暮らしをしてるけど、借り暮らしってそのまま人の生活のなかに入る感じ。引っ越しだともちろん家とか部屋とか、家の周りの環境とかは違うけど、自分がもともと所有してる家具とか持ち物のなかで暮らすわけで、家のなかでの暮らし方そのものはあまり変わらないですよね。
でも今回のように、家主さんの素敵な家具とか器とかがそのままの中で暮らすことで、他者の暮らしにおける価値観や美意識といったものに触れていろいろな学びがありますし、それが自分の中にインストールされていく感じはありますね。

荒木:
なるほど。

山岸:
僕自身ホテルとか宿泊施設に泊まるってことも多いけど、ホテルだと非日常の意識で過ごすんだと思うんです。非日常だからこそのメリットもあるわけですが、そこにある絵画とかベッドのシーツとかシャンプーやらなんやらはあくまで支払う料金に付いてる設備とか備品とか、サービス、アメニティであって、じゃあ自分の家でも同じものを使ってホテルにいたのと同じように暮らそうとかって日常の暮らしに変化を及ぼすことはさほどないですよね。ホテルに良いシャンプーとか良いシーツとかあってもそれは誰かのパーソナルな思いが入れがあるものではなくて、このホテルはサービスは良いなぁでだいたい終わりで、当然ですけど自分の日常に影響するような他者の暮らしにおけるパーソナルな価値観とか、こだわりとか暮らしの知恵の学びのようなものはないのかなと。
例えば福井の拠点は和室にこたつがあるので食事も気持ち的にごはんに味噌汁でって感じだけど、遠野拠点はAIスピーカーがあるから朝はAIスピーカーに「朝にあう音楽をかけて」と言って音楽流して、テーブルに座って静かに紅茶でも飲みだすみたいな。暮らしのなかのちょっとした部分が変わるだけでもいつもと違うことをひらめいたり、考えることも違ってきたりします。

荒木:
例えばAirbnbや民泊で人の家に宿泊しても同じことは起きる?

山岸:
うーん、短期だと難しい気もする。というのは人が日常で使ってる家具とか器とかあがる場所だったとしても1日とか2日だと、どこをどうしていいかわからなかったり、どこに座ろうかなとか、まだ非日常が強い。一週間とか少し長期でいて、そこでの暮らし方もわかってきて、それでやっと非日常が日常になってくるんじゃないかな。遠野の山小屋でルーチンワークのように毎朝コーヒーを入れる、あるいは福井の茶の間でこたつに足入れてぼけーっと「無」になる。いる場所が自分にとって日常の場所になったとき、他者にとっての日常の暮らしの価値観とか美意識みたいなものが自然とインストールされる気がします。

荒木:
岩手拠点に住んでいる間、家主の飼い犬のハナちゃんも預かって世話してたけどどうでしたか?

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山岸:
小さいころに実家で犬を飼ってたけれど、預かるわんちゃんは超大型犬ということででどうなるかなと不安もありました。でも本当によく躾されてる犬で、ドアを開けてあげると自分で敷地を散歩して、排泄もして帰ってくるし、ほとんど手のかからない良い子だった。いまとなっては離れるのが寂しいくらい。
犬との生活でも学ぶことがいろいろあって、例えば子供を持つ親の気持ちが多少わかったのではないかという気もしてる。僕は父子家庭で育ったので、子供の立場からすると親が留守にしてたって特別何か起きることもそうないし、ある程度大丈夫って感覚だったんだけど、逆に保護者の立場になると、そりゃ何も起きないんだろうけど、なんか心配だったり。寂しくしてないかなとか、長時間の外出だと気が気じゃないみたいな。
これが犬がいる場所に自分はあくまでお客さんとして行ったり、自分以外に犬の世話をする人がいたら、そういう学びもなかった気がするんですけど、お客さんとしでではなく、自分がその拠点における当事者で犬の世話をする責任があるからこそ学んだこと、生まれた感情だと思います。

目的が先か、拠点が先か

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荒木:
流動創生では2015年から多拠点の推進とかやってきたんだけど、実は辞書的には「住居」と「拠点」は違っていて、「住居」は「家」とか「生活の場」なんだけど、「拠点」は「活動の足場」なんだよね。だから例えば戦場における戦略的な基地とか、活動するエリアのなかで軸足を置く場が「拠点」。

山岸:
日本企業が国外に拠点を置くとかもそういうことですね。

荒木:
そうそう。そういう意味ではこの岩手拠点は「住居」か「拠点」かどっちだろう?

山岸:
まあ僕が住んでるという部分では「住居」なんですけど、家主さんには流動創生の活動の一端として使いたいと話したうえで使わせてもらって、実際に滞在者も来てたので活動の「拠点」でもありますね。

荒木:
企業進出の例でいうと、最初に国外市場を攻めたいとか、人件費の安いところで製品を安く作りたいとかっていう思惑があって、途上国に拠点を置いたりするわけだけど、その逆もあり得るよね。つまり、「拠点」が先にあることによって後から活動が始まるみたいな。そういうことを誘導する仕組みとして開かれた拠点、人が入れる拠点が置かれるっていうのは悪くないよね。

山岸:
それが今回の岩手拠点を開いた理由のひとつでもあって、僕自身が岩手拠点にずっと住み続けるわけではないけど、こういう場があることで遠野という地域を訪れて、この場所のことを知って、このエリアの人と知り合いになったりして、その先につながることがあってもいいと思うし。

拠点選択の「係数」は人それぞれ

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荒木:
いま多拠点を打ち出したサービスとかもいくつか出てきてるんだけど、ハードとしての「拠点」の要素だけが大きくなりすぎる事には少し危うさを感じる。

山岸:
僕は人がどこかに行くときには、この人に会いたいとかそこの人たちと話してみたいとか「人」の要素が大きいんじゃないかと思っています。なので多拠点サービスも、拠点がどこそこにあるっていうだけで行くというよりは、そのサービスを誰がやってて、行った先で誰に会えて、そこに関わってる「人」からどういう影響がもらえるか、といった要素が大きいんじゃないかなと。拠点の管理者なり拠点のサービス元が違えば来る人たちもまた変わってくるでしょうね。

荒木:
ただ、話飛ぶようだけど、岩手拠点の中では、「ストーブ」という”暖かさを提供する設備”の近くについ寄っていくよね?

山岸:
家の中でいうとそうなんですけど、じゃあとにかく暖かい場所に行くのかっていうと違うと思う。例えば、僕が岩手拠点にいる間も相当寒かったけれど、近くのおじいちゃんの家のほうがもっと暖かいから行くかって言ったらたぶん行かない。
暮らしとか滞在に求めるものはいろいろあるわけですけど、重要度とか優先度はそれぞれ違う。たとえばお湯が出ることも大事だし、建物のおしゃれさみたいなのも大事なんだけど、そこに全く知らない人がいたときに来るかというと難しいと思います。

荒木:
いろんな要素が組み合わさって選択されてるのが「拠点」なのではないかなと。「人」を重視する人は「人」という要素の係数が「×5」なのかもしれない、「家の設備」という要素については「×2」、「周辺施設」は「×1」とか。
それぞれ要素に対する評価の係数が多様化している、だからこそ多拠点、無拠点、バンライフとか、いろいろな暮らしの形態や、それを提唱するサービスが出てきている。

山岸:
うん、暮らしの何を重視するのかはいろいろあっていいと思います。自分は30年ローンを組んで家を建てますって人がいてもいいし、バンライフとか家を捨てて車で暮らすって生活があってもいいと思う。暮らす場の選択肢も、生き方の選択肢も多ければ多いほどいいと思いますし。

荒木:
その選択肢を広げるのが最初に言ってた「経験」だよね。企業や社会から提供される選択肢と、自分が望む、あるいは許容できる選択肢が重なるところを最終的に選ぶことになるわけだけど、どっちの選択肢も多ければ多いほど、自分の納得のいく暮らしに近づけるんだろうね。

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写真・文=山岸 竜也(シノノメクリエイション/流動創生)、荒木 幸子(FlowLife Laboratory/流動創生)

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