2020.03.07 Voice #016

「今の構造では成り立たない」若林恵さんが行政、市民へ投げかける問い


昨年12月にムック『次世代ガバメント』をリリースし、これからの行政と市民のあり方を考察された黒鳥社 若林恵さん。2月22日、流動創生のトークイベント「CrossOver」にお招きし、タイムリーな新型コロナウイルスの問題から地域コミュニティの事例まで、行政や地方を取り巻く課題について幅広くお話を伺いました。その一部を掲載します。

[Guest]
若林恵|ワカバヤシ・ケイ
1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)、責任編集『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』(黒鳥社/日本経済新聞出版社・2018年12月刊行)。https://blkswn.tokyo

[Moderator]
桜井陽|サクライ・ヨウ
1974年生まれ。Journalist。経済紙記者としてテクノロジー、政治、凶悪事件などをカバーしていたが、紙で伝えることの限界を感じ、取材方法をシフト。iPhone一台でアートや環境問題、新しい働き方などについての映像ドキュメンタリーを作り始める。さらに、メディアを介さずにオーディエンスと生で社会問題を共有するセッション型ジャーナリズムを実践している。国際基督教大学でリベラルアーツを修め、放送大学で教養学士を取得。立教大学21世紀社会デザイン研究科修士課程に在籍中。ジャーナリズムから教育に足場を移しつつある。

市民が病院に殺到しない仕組み

若林:
今回のコロナウイルスでいろいろ変わるなと思ってて。
まずリモートワークがこれでデフォルトになる。先週、大手の企業の人と話してたら、三割リモートにしていて「やー要らない会議は要らないね!」ってめちゃくちゃ喜んでて。リモートでもやれるじゃんって話になってる。
あと深セン(中国)では、地下鉄に乗るのに個人IDで本人確認するようにしてて、大規模に感染の広がり、つまり誰がどこの車両に乗ってたとかわかるわけですよ。町全体封鎖するみたいな20世紀的な手法しかまだないのかなと思ってたんだけど。スマートシティでやろうとしていたのはそういうこと。

恐らく今後デジタルテクノロジーを使った公共政策で出てくるのは医療とヘルスケア。遠隔医療、つまり「なんかぼくコロナウイルスにかかってるかもしれない、不安で不安で」みたいな人で「いやお前二日酔いだから」っていうケースが病院に来るのを防ぐという。医療崩壊っていうのはみんなが病院に殺到しちゃうってことなので、それをいかに制御するかっていうところでデジタルが役に立つんだろうなと。

荒木:
地方でも病院が減っているので、病院が院内感染で閉鎖なんかしてしまうと、他の病気の患者さんが大変になるっていう懸念はあるんですよね。

若林:
今までみたいに国民全員を病院でまかなうというのは無理なので、できるだけ病院に来させないというようにする仕組みをつくってかなきゃいけないっていう話になってる。
それにからめてスポーツ行政が動いている。つまり運動しろっていう。

荒木:
予防医療ってことですね。

大量生産・配給モデルの限界

若林:
基本的にこの本(『次世代ガバメント』)の中で何が言いたかったかっていうと、今のモデルを継続するっていうのは構造的に無理、立ち行かなくなるっていうこと。日本は60万の収入しかないんだけど100万毎月使ってるみたいな経済なわけだよ。税金の無駄遣いはできるだけ減らしたほうがいいけど、それが減ったとしてもそもそも無理があると。
これは日本だけの問題じゃないわけですよ。キリバスみたいなよく知らない国でもDX(デジタルトランスフォーメーション)やらないとねってなってるわけなんで。
これまでのビジネス、特にものづくりなんかは、大量につくるから数の論理でコストが下がるっていう利益で食ってたモデルじゃん。ところが国が豊かさを獲得していく中で大量につくっても買われなくなる。

ニーズが多様化してやたら種類つくらなきゃいけないとなると、数の論理が効かなくなるのでどんどん利益が減ってくわけ。いっぱい種類つくらなくちゃいけなくなるからどう考えても仕事増えてる。それがもうあらゆるところで起きてるじゃない。

行政府も同じで。行政の仕事は大量生産だったの。みんなに同じ給食出すからコスト抑えられてみんなに行き渡ってたわけだよ。ところが今は宗教上の理由で豚肉無理なんで、とか、アレルギーで食べられない、とか出てくると、今までみたいに好き嫌いをがまんして食えというのも成立しなくなるわけですよ。

アフリカのほうでは教育を放棄したっていう国もある。オンライン教育のスタートアップが入ってくっていう話だったと思うけど。

桜井:
行政施策で、放棄する部分と放棄しない部分ってうまいこと切り分けられるものなんですかね?

若林:
いや、基本的には全部つながっている話なので、こういうサイロがあってここはもうやめましょうみたいな話じゃないわけ。どのジャンルも必要なんだけども、それぞれをちゃんと効率化しようっていう話じゃないとやばいと思うよ。

形を変えて機能を継続させる

荒木:
例えば行政っていろんな担当課があるじゃないですか、総務課、観光まちづくり課、保健福祉課とか。こういう単位で放棄するとかではないってことですよね。

若林:
保健福祉課やめようぜとか、農林水産課いらなくねとか無理じゃん。文化を切ろうぜっていう話はやばいし。ただ、事務所、オフィスはいらんだろうっていう話になるわけ。銀行もオンラインでいろいろできるようになって支店が要らなくなってるよねと。ただ銀行には、銀行業務以外の機能もあっただろう、それはいいんだっけ?っていうのは正しい。お年寄りがなんとなく集まる場所だったんだとすると、それは継続したほうがいいよねっていう。

九州行ったときに変なコンビニがあって。コンビニの隣がカラオケボックスで、そもそもは別の事業主体だったんだけど、だんだんめんどくさくなってきちゃってカラオケボックスで飲み物出すのやめちゃって、コンビニで買って入って、なんなら会計もコンビニでやってってなっていったと。
それってコミュニティスペース、公共空間だからね。中学生が仲間と宿題やってもいいし、ちっちゃい子がいるお母さんがたむろす場所でもいいし。ほんとは行政がやってなきゃいけないものだけど。

桜井:
そういう機能が生成されるって、考えてつくったものじゃないですよね、偶然ですよね。

若林:
世の中は「ほんとはこういうことしたいんだけどなあ」というニーズのある人が、動いていって場所を見つけていく中で成り立っていくものだから。行政は民間の情報を束ねておいて、欲求をもっている人たちにちゃんと答えられる、コミュニティマネージャー的な役割なんじゃないかと。

文化保存には現代的意味付けが必要

参加者:
地域の祭りの保存活動に関わっているのですが、自治体は今後地域のお祭り等、文化の保存にどう関わっていくんでしょうか。

若林:
近代国家ができて一番最初にやることは、地図をつくること、辞書をつくること、つまり自国の文化がなんであるかというのを統一的に管理すること。公用語を制定するとか。その中でマージナル(周辺)化されたのものをどう扱うかっていうのも国家運営の要件として定義されてきた。なぜ国が博物館や美術館みたいなものをつくるのかというと、国民を教化する、アイデンティティを構築するっていうこと。中国はこの間ずっと書道ブームだっていう。要は文化革命で壊しちゃった文化的アイデンティティをもう一回構築しなくちゃいけないっていうことが、今中国ではわりと大きい話なんですよ。

祭りとか、なくなっても誰も困んないだろうという話を、いやいや残しましょうよっていう場合、どうやって論理的に正当化するかっていうのはちゃんと考えないと。
フランスの交響楽団の指揮者とトークイベントやったことがあったんだけど、俺基本的にオーケストラって大っ嫌いで。近代オーケストラって近代軍隊の構造に近い官僚制モデルだから好きじゃないんですよって言ったら、フランス人にガチ怒られて。「ばか!なめんな!」って(笑)。


「オーケストラがかつてはそういうものだったっていうのはそのとおり。ところが今は全然違って、オーケストラは来るべき市民社会の新しいモデル、ダイバーシティを提示しているんだ」っていうことを言い張るわけ。フランスでは、公共の予算をとるために指揮者が自分でオーケストラ公演のためのプレゼンしなくちゃいけないわけよ。それになぜ税金を使うことが正当化できるのかっていうことの論理構成をちゃんとしてる。結構感動したなあと。
祭りを残したいっていうのも、現代的な意味づけが俺は必要かなって気がしている。

共同体が重視すべき個々の「納得感」

参加者:
東京から地方に人が移住して働くということについてどう思いますか?東京に人が固まりすぎているので、地方の一つの解決策になるのではないかと。

若林:
混乱があるのは、「東京」と「地方」っていうのと、「都市」と「田舎」っていう話が結構ごっちゃになってるということ。これから起こることっていうのは「都市」への人の集中で、それと「東京」に人が集中しているっていうのは別の話。広域に人が暮らすとインフラが維持できないので集約させろっていうのが市町村合併の話だったりするんだけど、この話はわりと重要だったりするし、地方における都市集約化と「田舎」の関係をどうするんだっけっていうのが実はあまり前景化していないのが、俺はまずいんじゃないかって思ったりする。

今までは世界の人口のうち都市部に住んでるのが6割だったのが、2040~2050年には90%になるって言われているわけ。世界的に見れば人口は増大していくので、人が住んでるエリアとそうでないエリアを完全に分けて、都市の中にぎゅっと圧縮して如何に効率よく回せるかっていうのが課題になってくる。その中では、今までみたいな公共サービスの設計だともっと間に合わなくなるよねっていう。

日本の不幸は、より良い生き方をつくっていく方向にあらゆるサービスが向かっていること。それはいいんだけれども、そこでどうやって人が死ぬんですかっていうことをほんとに考えたほうがいい。良い老人ホームで死ぬことが幸せなのかっていう。結局幸福度っつーのは納得感の話で、納得感は死に方の問題って俺は思うわけ。本来的には共同体が一番重視しないといけないことを、市場に任せたっきり放置してるのってほんとにやばいと思う。

荒木:
居地選択にしても死に方にしても、あるいは集落を閉じるということがあるにしても、住民が自己選択するというのが大事だと思っているんで、流動創生は住民の自己選択にあたって「他者の手」を借りれる可能性を少しでも残せればって思ってます。


写真=宇野朱美(流動創生)
編集=荒木幸子(FlowLife Laboratory

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