2020.12.09 Voice #017

ソトコト編集長指出さんインタビュー【前編】 ずれていくことで生まれる豊かさ

帰省自粛、緊急事態宣言、県境をまたぐ移動への警戒、Go Toトラベル…新型コロナウイルス感染症発生以降、東京が過密の問題に直面する一方で、地方も内外からの混乱や揺さぶりに脅かされています。
地方誌の中心的存在であるソトコト編集長指出一正さんは、取材を通して都市と地方を行き来し、生の声を聞き、それぞれの場所の暮らし、生業、自然を読み解いてきました。指出さんが、今地方にどのような眼差しを向けているのかをお聞きしました。
(このインタビューは2020年8月、オンライン会議ツールZoomで実施したものです。)

指出一正(さしで・かずまさ)
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。
⇒ソトコトオンライン www.sotokoto-online.jp

コロナ禍による地方地域の二極化

指出さんは関係人口の伝道師として全国各地をまわっていらっしゃいましたが、新型コロナウイルスの影響はどうでしょうか?地方地域の変化をどのように感じていらっしゃいますか?

指出さん(以下敬称略)
地域は、進むべき方向が二つに分かれ始めてきたという感じがしますね。
一つは経済や教育など、みんなが幸せを享受できることを地域の中でやっていこうという動きです。コロナの関係で外から人が来づらくなったり、外から来てもらうことそのものを地域の人が好ましくないと思っている状況では、地域の人たちだけでやっていくという舵をきったところもずいぶん出てきたなと思います。
もう一つは、やはり自分たちだけで完結させるのではなく、いろいろな人たちとの接点をもつことで思いも寄らない変化が起こる、ということに確信を得ている地域は、変わらずオンライン、オフラインの手法を問わず取り組んでいます。
この二つで大きく分かれちゃっている気がしますね。

地域の中にもどっちの方針もいると思うんですけど、例えば民間と役場とでも考え方が違いますよね?

指出
そうですね、行政として方向転換をした自治体は多いと思いますね。
移住定住や関係人口は長いスパンで利益がある仕組みだと思うんだけれど、そうも言っていられない状況がみんなを急き立ててしまったから。少なくともこのタイミングで予算をかけるべきは、地元の産品の宣伝など、自分たちのところにある物をキャッシュに変えることだといった判断があるようですね。
なんでそういうふうに思ったかというと、空港にある県の広告スペースを見ていて、一次産業の宣伝が強くなったりしてるんですね。人が来なくても地域が稼げる方法としては、輸出、つまり産品を買ってもらうことが大事ですから、そちらに舵を切ってるところが多くなってるんじゃないかなと。
こういうことができるのは自治体のトップの判断だと思うので、トップが方向転換せざるを得ないような状況へ、コロナが作用してしまっている。

そのおかげというか、地域がバラエティに富みはじめている気はしますね。広い意味で、地域が豊かになっていくことが僕の望みなんですよ。豊かさって地域によって違いますが、例えばつくっているものが広まって、つくり手のみなさんが仕事に対して手応えをもっていくのはいいことだと思う。これはこれで、地方創生という言葉ではないかもしれないけれど、地域の豊かさを増幅する一つの方法だなと。

煉瓦屋からボイラー屋へ…業態の柔軟性

地方からの輸出を受け止めるのは都市部になると思うんですが、とはいえ東京も厳しい状態に徐々に落ちてきています。私も地方の産業が崩れてしまうのはまずいと思いつつ、先の輸出の戦略など、一つひとつの取り組みが本当に継続性をもってやっていけるだろうかというのも心配です。
近年は、水害や台風といった災害で、起業した移住者も再起が難しく行き詰まるというケースを見ます。そのような、経済的体力がまだ十分でない若手の参入者には何かしらの支えが必要なのではないでしょうか?

指出
多様な主体が生まれる前に、その地域にすでに強い主体が存在するという前提で、そこから暖簾分けしていくのがいいのではないかと。地域の中にすでにある団体にインターンシップとして参画する、あるいは地域の先人からアントレプレナーシップを学んで、緩やかに拡張していくという方法はありだと思いますね。
例えばある地域では、農業を主軸に置いていた地域団体が母体となって宿を開業したり、まちづくり会社が既存事業でためたノウハウを若い人が活用していったりという事例もあります。
いきなり一人で起業すると資金繰りがうまくいかなかったり、近年はコロナもそうですが、災害など、対人ではなく対物的な有事に対応できない状況もあります。そういうときに、地域の集合知があるかどうかで全然違います。集合知のあるところには、一つまた一つと、マインドをもった事業者が出てきますし、そっちのほうが安全なのかなと思いますね。

それと、一つの業態に縛られるのも悪くないんですけど、企業というのは長い間に変化するものだから、何かがうまくいかなくても、そこで別の何かをやっていくっていう気持ちを持つ、フレキシブルに考えることも必要かなと。

そういう柔軟性って、地方か都市かに関係なくどこでも必要とされますよね。

指出
佐渡で僕が好きなお寿司屋さんは、もともと中華料理屋だったんですね。それがお寿司を出してほしいって言われてお寿司を出すようになったら、すごい名店になって、実はラーメンも美味しい、みたいになってるわけですよ(笑)。
柔軟性っていうのは、日本人が意外と持ってたものだと思うんです。僕の実家ももともとは煉瓦屋だったけど、父親がボイラー屋に変えて、それで百年企業になったりしてて。やっぱり結構変えてるんですよ。で、僕はもうなぜか出版屋になってるわけですから。
長く続いてるところばかりフューチャーされがちですけど、そこは続かなかったところがたくさんある中で少数残ってるから注目されているというのであって、必ずしもそれをお手本にする必要はない。変わっていくほうにもスポットライトを当てたほうがいいんじゃないかと思いますね。

「地域/事業の死」ではなく「遷都」という考え方

地方は新しいことがやりづらいという言説と、ブルーオーシャンだからやりやすいという言説の両方がありますよね。それは地域ごとの性質として違うのか、それとも入っていくプレイヤーのやりようなのか。いろいろ要素はあると思うんですけど、指出さんが関わっている方たちを見渡したとき、どのような要素が、新しいことのやりやすさのキーになると思いますか?

指出
一番は、「すぐ隣にいる人が挑戦しているということの安心感」があるのかなあと思いますね。ローカルで、一人で何かをやっていくのって、ほんとに孤独との戦いでしょうから。
例えば、若い世代の経営者の皆さんが、新しい事業や商品開発に挑戦している地域があります。仲間が大勢いるので、他の人の挑戦を見て、自分も何かをやろうという気持ちになれる。それぞれ興味の対象や挑戦することは別かもしれないけれど、孤軍奮闘ではなく、同時代性をもって、現在進行形で何かをやっている人がいる。それは成功者じゃなくて良いんです。

地域で何かの中心となる取り組みが強い力を放ってしまうと、その中心にいた人がいなくなったときに、もともとの取り組みを超えようとして、ものすごいエネルギーが必要になってしまうんだろうなというのは感じます。
僕が最近伝えているのは、地域でそのときそのときの中心になるものが「遷都」していったらいいんじゃないかと。要は軸ずらしですね。例えば1kmくらいずれたところに新しいコミュニティができる。一か所に乗っかりすぎないっていうのかな…10年くらいで3〜4か所くらい、それぞれの個性の際立つ場所ができると、わりと長い間、その地域で活動する人が集まりやすくなるのかなと。
「遷都」しても、もともと中心だった取り組みが機能しなくなるかっていうと、そんなことはなくて。そこはそのカラーで居続けられるし、新しい取り組みによって新しいタイプの人が現れるわけですから、結果的にその地域の中で多様性が広がっていくんじゃないかなという気がする。
流動創生と遷都というのは近い考えだと僕は思うんですよね。

集落の死、地域の死となると残酷な感じがするんですけど、すべて消えてしまうのではなくて、中心をずらしていく、まわりもそれでいいじゃないって受け入れていくというのは、今いろんな人が模索している「地域の畳み方」の一つの形なのかなという感じがしますね。

聞き手・文=荒木 幸子(FlowLife Laboratory/流動創生)

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