2020.12.10 Voice #018

ソトコト編集長指出さんインタビュー【後編】 フレームの外にあるもの

省自粛、緊急事態宣言、県境をまたぐ移動への警戒、Go Toトラベル…新型コロナウイルス感染症発生以降、東京が過密の問題に直面する一方で、地方も内外からの混乱や揺さぶりに脅かされています。
地方誌の中心的存在であるソトコト編集長指出一正さんは、取材を通して都市と地方を行き来し、生の声を聞き、それぞれの場所の暮らし、生業、自然を読み解いてきました。指出さんが、今地方にどのような眼差しを向けているのかをお聞きしました。
(このインタビューは2020年8月、オンライン会議ツールZoomで実施したものです。)

指出一正(さしで・かずまさ)
『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。
⇒ソトコトオンラインhttps://sotokoto-online.jp/

誰かを追い詰めない「もののけ」の理論

今残念なのは、特に東京は間違いを許さない、間違いがあっちゃだめだという風潮が強いですが、それが地方にもちらちら見えてきていることですね。感染者を出してはならないという厳しさとか。
私(荒木)も福井に行けず半年以上経ってしまいましたが、やはり地方の価値としてわたしが今も信じているのは、システムで区切られすぎていないこと、悪く言えば「いい加減」ですが、良く言えば「大らかさ」、「曖昧さ」です。それが損なわれているような気がして、悲しくてしょうがないんです。地方が以前の様な大らかさを取り戻すにはどうすればいいでしょうか?

指出さん(以下敬称略)
タイムラインの潮目みたいに、「あれは間違ってるよ」って誰かが言ったら、それに則って「間違ってる」って言えば、自分で考えなくてもいいので生きやすいのかなとも思います。
関係人口もそうですけど、0か100かではない「あわい」みたいなものをどう大事にするか。そういう光と影の間くらいのところの美徳を教えてくれたのは、僕たち日本人の先祖だったりするんですね。その曖昧さを大事な要素の1つに加えて、「光」と「影」と「その間」、拮抗する3つの価値観をつくらなきゃいけないかなと。正解でも間違いでもないみたいなことが世の中ほとんどなんだと。

僕は日本の中山間地域によくある「もののけ」の話が好きなんですよ。人間はみんな、キツネやタヌキに化かされて生きてるっていう。実はこれはとても大事なバッファになっていて、誰かを追い詰めないための言葉の修辞なんですよね。
今だったら認知症のおばあちゃんが行方不明になって、ある日ちょっと離れていたところで突然見つかったら大騒動ですが、昔は「あれは狐に化かされたんだ」「とんでもないいたずらだなあ」とごまかせていた。おじいちゃんもおばあちゃんも地元の人も、恥をかかなくて済むわけです。
そういう存在を無いものにしてしまったから、人間対人間のゴリゴリの干渉になって、生きづらくなったというのがありますよね。

もちろん、やっぱり知らないものは怖いので、身構えるのは人間の本能だし、社会的な動物として大事なことだと捉えつつも、もうちょっと冷静さが戻ってくるといいんじゃないかなって思います。 東日本大震災の原発事故があって、しばらく東日本の農産物に関していろんな風評が立ちましたけど、最終的に何を受け入れたかって言うと、やっぱり安心できる「関係」だったわけですね。この人が作ったから安心できるっていう、数値ではないもの。 コロナ禍ももうしばらくすると安心の原理で動き出すのかなと。まだ時間はかかるんだろうなとは思っていますが、今日こうやって僕と荒木さんで話したことも、もしかしたら数週間後には温度感が変わっているかもしれません。

あとやっぱり、メディアが言っていることをすごく大事にしてくれて、僕たちの言葉を本当に信じてくれている人たちが、僕たちが想像している以上にたくさんいるってことを、僕たちメディアはもうちょっとわきまえたほうがいいのかなって思います。みんな素直に受け取ってくれる。そういうことも含めて、言葉を選んだり、発信に気をつけたりしないとな、と。

「誤作動」の面白さ

危機が迫っている地方だからこそ試行錯誤できることがあって、都市や他の分野が学べることがあるのではないかと思います。指出さんの視点から、地方地域が今の日本全体に対して影響を与えていることがあるとすればなんでしょうか?

指出
そもそも僕がどうして地方が好きかと言うとですね…伝言ゲームってありますよね?教室で一番前の席の人が、先生から伝言を預かって後ろにまわしていくと、最後あられもない伝言になったりする。先生が想定できない答えがそこにあるわけですよね。
東京っていうところが先生役だった時代は、それが地方で起きていて面白かったんです。同心円上の遠くにいくほど、ローカルが解釈した素敵な「誤作動」が起きてる。これがイノベーションやオリジナルなものになっていたんだろうなと。最近は東京と地方があまりフラットになってしまって、「誤作動」が起きにくくなってしまっている。地方の強みである「誤作動」を意識的に起こさないといけないと思うんです。
僕は言葉を仕事にしているので、「誤作動」をどう起こすかといったらやはり、言葉の組み合わせですね。たとえば「SDGs」に「やわらかい」って言葉をつけてみると「それってなんだ?」っていう「誤作動」が発生する。問いを投げかけることができるし、興味がなかった人を引きつけることができるんですね。でないとSDGsはあの色とあのイメージで終わっちゃう。
東京をお手本としたエラーのない社会だと、問いや興味など、本能的な刺激をなくしてしまうんですね。

“Local to Local”(地方地域間のやりとり)は、そういう意味で可能性を感じてるんです。もともと地域間でも、物々交換とかで「誤作動」が起きてたと思うんですよ。大きな力をもつところから配給されるような社会のつくりかたは、やっぱりあまり面白いことは起きないんだろうなと。

オンラインでは替え難い対面の情報量

指出
だから、流動を止めないでください。
誰か新しい人が現れるだけで、その人がその場にもたらす情報量って凄いわけですよ。顔も喋りも立ち振舞いも、こんなに面白いエンターテイメントはない。これはやってきた人と迎える側、双方にとってです。たとえ喋らないとしても、人が人と対面で会うという価値がある、流動創生はそれを守っていってほしい。

対面の威力は私も意識しています。今、その対面でやりとりされるものと一緒に、菌のやりとりも連動してしまうのが難しいところですが…
そしてコロナウイルスが科学によって少しずつ解明されている一方、もともとあった対面でやりとりされるポジティブな「何か」は、正直なところこれまでに十分に明らかにされてこなかったのだと思います。
対面で会いにいくということには、感染も、あるいは移動中の事故や費用等のマイナス面を覆す意味がある、だからリスクがあると承知の上で行くのだというところまで持っていかないといけないと思っています。

指出
オンラインの手法でも、コミュニケーションや人との関係性等、流動性を保てる部分はあります。ただ、今の荒木さんと僕もそうですが、やっぱり「フレームの中で」お話をしているんですよね。フレームの枠外の情報は手に入らない。

オフラインではフレームが取っ払われて、自分が見たいものを見たり、自分が聞きたいものに耳をそばだてることができる。
今ももしかしたら僕の横にうちの後輩がいて、荒木さんと僕の会話を聞いてるかもしれないですけど、このフレームを介してだと、荒木さんとその後輩は会えないわけで、それはやはり「正解の論理」というフレームになっちゃうよね。
「正解の論理」の枠から外れたところで、面白い人がいるなあとか、この人の考えてること好きだなとか、感情の起伏が起こるわけです。「正解」じゃないものを捨ててはいけないんです。

聞き手・文=荒木 幸子(FlowLife Laboratory/流動創生)

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